静まり返ったカフェ。

俺は一人カウンターに座り、ココアを頼んだ。

皐月が返事もせずココアの粉末をマグカップにいれホットミルクを注ぐ。カチャカチャとマッグカップとスプーンがこすれあう音が店内に響く。

「はい。どうぞ」

マグカップからスープンを取り出しながら、皐月は静かに微笑んでココアを出した。

ありがとうと呟いて、マグカップを両手で包み込むように持つ。

温かい液体から、白い湯気がユラユラと立ち上っている。

手から伝わる温さを感じるととても落ち着く。先ほどまで外に出ていたので尚更だった。

外に出ていた、というのは昔の友人の墓参りに行っていたこと。

この日は俺以外の奴らも墓参りに来るので、ある程度時間を考え偶然会うことがないよう、夜に行っているのである。

「ねえ、今日、お墓行ってきたんでしょ?仲直り、しないの」

使用済みの食器を洗いながら皐月は、俺の心を見透かすようにそう言った。

毎年、毎年皐月は聞いてくる。「仲直りしないの?」これはもう耳にたこができるほど聞いた。

でもそれは俺の錯覚で、皐月は年に一回しかこの言葉を口にしない。るきの命日だ。

自分の中でエコーする。「仲直りしないの?」ずっとずっと繰り返されている。もう分かっているのに。仲直りだなんて、そんな子どもっぽいことしなくてもいいはずの年齢なのに。

仲直り、したいさ。でも、それは無理だ。

今まで何回も言われた。今まで何回もしようと思ったさ、でもできなかった。だから、もう諦めた。

「仲直り?しなくていいよ。そんなの。人は、別れ、そして新しい出会いがあって生きていけるんだから。ね?そうでしょ?」

口から出たのはそんな言葉。心にもないとかそういうわけではない。

割と本気で、こう思っている。仲直りってもういいじゃん?

「違うよ」

「ん?」

「違うよ、それは。それはただ、昔のことから逃げようとしているだけだよ」



そんなこと、知ってるよ。

「知ってる。仲直りしないといけないなんて」

ぶすくれた声で呟く。まるで子どもみたいだ。

「だったら、したらいいじゃない?」

さも、当たり前のように皐月が言う。先ほどまでの重たい雰囲気がぱっと軽くなった気がした。

なんかもうノリで仲直りいけそうな気が...。

「よし!!じゃあ、LINE打つ!!12月16日、カフェで、話したいことがあるってゆうちゃんが言ってたよ、っと...」

皐月はすばやくスマートフォンを取り出すと、液晶に向かってぶつぶつ呟きながら光の速さで打つ。

え、ちょっと待って、ノリってまじで?え、心の準備が...。そんな風に挙動不審になってしまう。席から立ち上がって、送信を阻止しようとするが、皐月は、送信っ!!と楽しそうに送信ボタンを押してしまった。

「はぁ...」

大きなため息が漏れる。そりゃあそうだ。いけそうな気というのは大抵いけない。結果はどうせ悪い。

きっと話し合いなんて誰も参加してくれるはずがない。話し合いの話をし始めた当の本人(正しくは皐月だが、今回は俺)も仲直りなんて諦めているのだから。

「どうよ?ゆうちゃん。これが私の力。見たでしょ?」

わけが分からない。なんだこの女は。

確かに、激しく抵抗しようと思わなかった。送信するのを阻止するのだって、もっと早く動いていればできていたはず。

ふふーんと誇らしげにスマートフォンをなおす皐月。

今からだって、遅くない。「さっきのは間違い。酒に酔った勢いで送っちゃっただけ」とかなんとか送ればいいだけの話。

けれども、俺がそれを実行に移さないのは、


どこか、仲直りについてまだ諦めていないところがあるということ。


第一イベントの結果で、仲直りの話合いの参加者が決まります。

みんな、参加しようぜ。(イベント)